Thursday, January 26, 2006

門井先生

先生は、新たに樹立できそうである自分の単球株化細胞の写真をモノクロで撮影しようとしていた。
先生はその株化細胞の樹立を確信するまで、それらの細胞のフラスコでの像を何度も見ていたが、それを写真に撮るというのは初めてだった。写真という証拠を残すという点で、国際雑誌に投稿する事を念頭に置いている先生には、とても意味深い事のようで、とても集中していらっしゃるのがとても伝わってきた。

写真のフィルム現像というのは、暗箱の中で、現像ウィールにフィルムを巻いて、それを現像タンクに入れ、上から現像液を流し込み転倒攪拌をする。暗箱の中で見えないので、フィルムをウィールに巻く作業は失敗する事も多い。フィルムがくっついてしまい、現像液がうまく浸透せず、そのまま定着してしまうので写真にならないのだ。写真に関してはアマチュアである科学者が一番心配するのはこの点である。

先生も同様にこの事を心配していた。私も今まで何度か先生が一部のフィルムで失敗しているのを見た事があった。

研究室の電気を消して、10枚ほど撮影した後、先生は流れるようにフィルム現像の工程に入った。そこには何の迷いもないように私には見えた。現像液で反応させ、続いて定着液で反応させた後、初めて肉眼でフィルムを見る事ができるようになった。先生はいつものように、洗剤水へフィルムを入れると時に、フィルムがくっつくという失敗がないか確認した。その時、

「神様、どうか写って。。。」

三歩ほど離れていたところにたってみていた私が聞き取れるか、取れないほどの声で先生がつぶやいていた。門井先生は67歳で、生粋の日本男児で、頑固者で、エゴイストで、軽はずみに神頼みなどするような人では決して無い。
だからその時は私は、この科学者が、その細胞にこれだけの思い入れをしているということに、ものすごく感動した。その細胞は先生自身の知識欲を満たすものかもしれないし、先生の未来の科学に伝えたものなのかもしれないし、またその両方かも知れないし、もっと門井先生なりの多くの意味があるかもしれない。 ただ、その姿は何も語らなくても、多くの事を私に考えさせた。留学に対する私の姿勢、将来に関する私の姿勢についてだった。私の姿勢すべては先生に比べるとあまりにもお粗末で、子供じみ過ぎだと思った。

私は自分が67歳になったとき、門井先生のように人に影響を与える人になっているだろうか?
今は自分より優れている点を持っている人を上に眺めて、追っかけるということばかりしているから、一生なにかを追っかける人生になるのだろうか?
小泉首相が内閣メルマガで言っているように、オリンピック選手は、恵まれた才能に加え、人並み以上の努力をしている。
「少年老いやすく、学成りがたし」
私も自分は自分のしたい事の中で、どの才能に恵まれているのか、何に向いているのか見極め、それを仕事にしたいなと思った。

2 Comments:

Blogger *fumiko* said...

門井先生かわいい人だね。
私も先生の気持ちわからなくはないな。
自分はまだアメリカに来て11年しか発っていないが、やっぱり獣医学校には一発で入りたい。そのための努力は本当に疲れる。
学校に行きながら、Aをとることの難しさまた楽しさにいつも精神を使いきっている。使い切ってでも、週末には仕事に行き、肉体労働でヘタヘタになっても、学校の試験は待ってくれない。
そんな毎日を私は送っています。
*自分でも何でこれを書いたかよくわかんない。*

9:53 PM  
Blogger yoko said...

あたしって、一点集中型だから、お姉ちゃんみたいに勉強と仕事とlove lifeを両立した事がなくて、これから初めてそれを経験するような感じです。

あたしが最近思うのは、やることがたくさんあったら、めんどくさがらず(あたしの悪い所)こつこつやること。
片付けも大事だ。ちくしょーエントロピィめ!!!!!

お姉ちゃんもあんまりストレスを抱えないで下さいね。

10:45 PM  

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